【19】運動誘発電位モニタリングにおける有害事象を防ぐ、バイトブロック
関西医科大学 麻酔科学 講座
脊椎外科、脳神経外科、心臓血管外科の手術において、運動誘発電位(MEP)モニタリングを用いる。MEP モニタリング下では筋弛緩薬の使用が制限され、さらに経頭蓋的に電気刺激を行い咬筋が収縮することから、術中に咬傷関連のトラブルがしばしば生じる。頻度が高いのは、舌咬傷である。腹臥位においては、重力により前方突出した舌を前歯で噛み絞める。仰臥位や舌を口腔内に押し込みすぎた場合においては、舌側方を奥歯で噛み絞める。これらの機序で深刻な舌咬傷を起こすことは症例報告としても多数発表されている。
また、バイトブロックが硬すぎる場合は歯牙損傷、柔らかすぎるならば気管挿管チューブやカフチューブを噛み切る事象が発生する。気管挿管チューブに損傷が加わった場合は、換気不能から急変し得る。
上記の理由により、「適切な硬さ」「舌が前方突出しない」「舌が奥歯でも噛まれない」「気管挿管チューブを逃がすスペースがある」といった条件を満たすバイトブロックが必要だが、現状ではそのような商品は販売されていない。
よって、各施設の麻酔科医は、有り合わせの物品で工夫し対処しているのが現状である。当院においては、他手術でも使用しているシンプルなバイトブロックと、口腔内にガーゼを適切な枚数詰めることで対応している。口腔内にガーゼを詰めることもトラブルを起こし得る(ガーゼの誤飲、抜去し忘れによる換気困難)ので、推奨されることではないと考えているが、現状ではこのように対応するしかない。
他院に対し聴取したこともあるが、大阪大学や、MEP研究が活発な奈良医大においても同様の状況であると聞いている。
MEPモニタリングを併用する手術は、他科においても増加傾向となると思われる。大腸外科、婦人科、腎泌尿器外科などにおいても、実施が検討されている。