
カテーテルおよびそれと併せて使う検査・治療用機器(カテーテル等機器)の研究開発に資する背景情報として,肝細胞がんと頭頸部がんの治療における同機器の利用状況を分析した。日本の学術団体が公開した2 つの大規模調査データソースを用いた分析により,以下が明らかになった。(1)肝細胞がん治療の症例全体において,カテーテル等機器を用いる肝動脈化学塞栓療法(TACE)の実施割合は,2007 年以前と比較すると低下したものの,2008 年以降は20%台で推移していた(2000 年~2015 年時点)。(2)頭頸部がん治療の症例全体において,カテーテル等機器を用いる動注療法の実施割合は低く,2021 年では1.8%であった(化学療法のうち,単独での実施)。一方,動注療法が実施された症例において,がんの初発部位別に実施割合を分析したところ,いずれの年においても上顎洞がんで最も高く,2011~2013 年では33~41%,2014 年以降は51~60%で上昇傾向にあった(2011~2021 年時点)。また医療現場では,動注療法と放射線療法を同時併用するRADPLAT が適宜選択されていた。上記の背景として,(1)に関しては,非ウイルス性肝細胞がんが増加し,肝機能が比較的保たれている場合は根治的な治療として肝切除が選択される傾向にあった一方で,TACE も診療ガイドラインに基づいて適宜選択されていたことが挙げられる。(2)に関しては,上顎洞がんでは栄養血管の走行や分布が比較的シンプルなため,その血管を通じて動注を行いやすく,良好な治療成績が見込めることや,外科手術による顔貌の著しい変化を回避することが挙げられる。総じて,本調査分析ではがん種が限られ,また手法上の課題はいくつかあるものの,がん治療におけるカテーテル等機器の利用について概観することが可能であった。