本稿では,カテーテルおよびそれと併せて使う検査・治療用機器(カテーテル等機器)の研究開発について,その背景を医療・市場・社会の観点で調査分析し,カテーテル等機器の研究開発の方向性を示した。結果は以下の通りである。① 国内外の医療機器市場において,カテーテル等機器の占める割合は相対的に高かった。世界市場における売上高占有率(シェア)は米国系企業が圧倒的に高く,特にステントはその傾向が顕著であり,国内市場での高い輸入割合につながっていた(2021 年までのデータより)。② 社会全体の疾病構造として,国内外ともに循環器疾患が主な死亡原因になっており,この傾向は,同疾患の診療に用いるカテーテル等機器の臨床ニーズにつながると考えられる。③ 心血管疾患の診療では,カテーテルを用いた検査は減少あるいは横ばいであり,治療については薬剤溶出性ステント(DES)留置と不整脈カテーテルアブレーションの件数が多く,特に後者は約2 倍に増加した。経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)は約14 倍に増加し,最も増加率が高かった(2015~2022 年の調査データより)。④日本における臨床上の課題を考慮すると,研究開発の方向性として,心血管疾患領域,脳血管疾患領域,がん領域ではさらなる低侵襲化,高精細化,簡易化が求められる。上記の結果と,日本の企業やアカデミアによる革新的なカテーテル等機器の開発事例とを考え合わせると,日本において研究開発の成功事例を増やすための取組をステークホルダー間で地道に続けることが医療イノベーションにつながるとともに,国際競争力の強化に導くと期待される。一方,これまでの世界市場のシェアを見る限り,日本のカテーテル等機器全般の競争力は決して高くはないことを考えると,研究開発以降の製品化や事業化のプロセスを改善・強化していく取組も併せて必要である。